書籍出版事業プロジェクトチーム委員
弁護士は、人生を左右する重要な局面での業務を担うという意味において、また依頼者の犯したミスのリカバリーをすることを任務とする意味において、失敗の許されない職業のひとつです。
ところが、「弁護士の失敗」は恥ずべきものとしてタブー視され、これまでは表立って語られることも、ましてや公の出版物になることもありませんでした。
本書は、そのタブーに挑んだ初めての書籍と言えるのではないでしょうか。
本書は、総勢7名の執筆者によってまとめられました。
年齢や経歴の異なる多くの執筆者の体験や考えを幅広く紹介することで、一人の執筆者では成しえなかった深みのある一冊に仕上がったと自負しております。
第一章では、弁護過誤と弁護士懲戒の現状から見えてくる教訓を、弁護士の失敗学総論としてまとめました。
第二章では、契約場面や法廷、各種事件の現場において、現役弁護士がヒヤリとした実体験を20例掲載。なぜそのような事例が起きてしまったのか、どうすれば防げたのか、解説を加えながら紹介しています。
第三章は、失敗の防止法と題し、仕事の探し方から精神の健康法、人生設計に至るまで、弁護士業を営む上で起こりうるさまざまなトラブルを未然に防ぐためのアドバイスを提示しました。
第四、第五章では、失敗の極致である懲戒の事例や統計を分析・考察。日弁連刊行の「弁護士懲戒事件議決例集」の中から依頼者とのトラブル事例を拾い上げ、議決所には記されていない動機や背景事情にも迫りながら、弁護士の失敗を語るうえで避けては通れない懲戒から、失敗を学んでいきます。
全五章に及ぶこれらの「失敗学」を、平易な表現と図を用い、理解しやすくまとめたのが本書の特長です。
弁護士の失敗はあってはならぬもの。しかし、弁護士とて人間である以上、完全にミスをゼロにすることは不可能です。大切なのは、小さなミスを見過ごさず、取り返しのつかない大きな失敗に発展するのを防ぐこと、そして失敗から学び、同じ過ちを繰り返さないことです。
とかく他人の失敗は興味本位に見られがちなものですが、本書に掲載された「失敗」はいずれも、我々弁護士にとって決して他人ごとではありません。目を逸らすことなくこれらの失敗を見据え、教訓を得ることが大切です。
経験の浅い若手弁護士はもちろん、慣れによる油断の出てくる中堅・熟練の弁護士にもぜひ手に取ってご覧いただき、失敗を未然に防ぐ一助としていただければ幸いです。